AIの力で新たな薬効を見つけ出せ~~ドラッグリポジショニング
近年、医薬品開発の研究でドラッグリポジショニングと呼ばれる研究が盛んにおこなわれています。
ドラッグリポジショニングとはすでに存在する薬から新たな薬効を見つけ出し、別の病気の治療薬として転用することです。
創薬は一般的に、病気に効果のある化合物を探し出す基礎研究、そしてその化合物を実際に細胞や動物に投与し、効果や安全性を確かめる非臨床試験。最後に非臨床試験を通過した薬の候補が本当に人間に対して有効で尚且つ安全であるかを確かめる臨床試験を経て新たな薬が誕生します。
そのため、新たな薬が生まれるまでには膨大な時間とお金を要することになりますが既存の薬を使うドラッグリポジショニングならすでにこれらの基礎研究や臨床試験をパスしたものなので開発までのお金と時間を大きく節約することが出来ることに加え、副作用も予測しやすいので新薬より安全性が高いです。
高騰を続ける医薬品開発
今まで新薬の開発には9~17年という歳月と1社あたり621億円という研究開発費を必要としていましたが、近年は従来の化学合成ではなく、ホルモン、酵素、抗体などを使って作るバイオ新薬が登場したことにより研究の難しさが跳ね上がっています。
結果、2004年では1社あたり621億円だった研究開発費は2017年では1414億円と2倍以上になっています。
バイオ新薬は高い効果が期待できるものの、単純な化学合成とは比較にならないほどの研究の難しさから、莫大な研究費を必要とするため高額になる傾向になるのです。
今年3月26日に日本で認可された血液がんの治療薬「キムリア」は投与した患者の8割に効果があり、特効薬との評価を受けていますが
1回の薬代が約5200万円と超高額です。
また、日本でもノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑氏が開発に関わったオプジーボなども発売当初は年間3500万ほどの医療費がかかるとされ、話題になりました。
これらの薬は偶然高額になってしまったわけではなく、バイオ新薬という新たなジャンルにおける研究開発の難しさを示すものであり、今後もこのような高額薬は後をたたないでしょう。
そのため、お金も時間も節約できるドラッグリポジショニングの研究が注目されているのです。
もうひとつ、ドラッグリポジショニングの研究が注目されている理由にAI技術の発達があります。
ドラッグリポジショニングの研究自体はもっと昔から存在したのですが、人の手で行われるドラッグリポジショニングは臨床データを人がひとつひとつ症例・年齢・使用頻度と言った膨大なデータから隠れた有効作用を見つけ出すという言わば満員の東京ドームから特定の人物を探し出すような途方もなく大変で効率の悪い作業でした。
それがAI技術が発達したことによりこれら投薬に関するビッグデータを効率的に解析できるようになってきたのです。
例えば、本来人間では絶対に注目しないような相関性(特定の食物を定期的に摂取している人に高い効果が出るなど)も見つけ出せるようになりました。
もともと創薬の分野では基礎研究や非臨床試験などでは想定されていなかった効能が治験段階で初めて発見されると言ったような予想外の発見も多く、いかに人間だけでデータを適切に処理することが難しいかがわかります。
まとめ
高騰を続ける医療費は恐らく止まることはないでしょう。そうすれば我々の税金だけですべての医療を支えることは出来なくなり、今のままでは必ず現在の医療保険制度は崩壊することになります。
AIが主導するドラッグリポジショニングはそんな高騰を続ける医薬品開発分野の救世主になるかもしれません。