子供の医療費の助成拡大で得た住民は自治体の利益になるのか
今、全国の市町村で子供に対する医療費の助成が行われているそうです。
国が定める子供に対する医療費の助成は小学校に入るまでが2割負担。小学生以上が一般成人と同じ3割負担となっていますが、程度の差はありますが実に9割の市町村が小学生以上の子供にも医療の助成を行っているそうです。
また、この動きは拡大していて、どんどん助成の割合が大きく、また、対象が広がっているようです。
どうしてこんなことをしているのかというとその大きな理由は住民の呼び込み。つまりは「うちは子供の医療費が安いですよ!うちに引っ越して子育てしませんか!」ということのようで、助成の動きは都会より地方のほうに多いようです。
少子高齢化、つまり高齢者が増え若者が減る。高齢者の介護費や医療費といった福祉にかかるお金はどんどん増えるのに、税金を納める若者が増えない、減る、生まれてこないという状況ですね。これを打開すべく他所から若者を取り込んでお金を増やそうという作戦なわけです。
今回はこの市町村の作戦について考えていきたいと思います。
高いより安いほうがいい。住民の増加は期待できる
これは医療費に限ったことではないですが待遇がいいほうがいいですよね。住民税が高いより安いほうがいいです。治安が悪いよりいいほうがいいです。他の市町村より子供にかかる医療費が安いというならそれに魅力を感じて引っ越してくる人はいるでしょう。
小さな子供を抱える世代であれば当然働き盛りでしょうしこれから長らく税金を納めてくれるはずですので狙う層として理想的にも思えます。
目的の税収アップにつながるか
問題はここです。住民が増える→税金を納める人が増える→税収アップとなればいいですがこれは無条件で住民が増えた場合です。
今回は子供の医療費を他の市町村より優遇して得た住民たちです。
これはマーケティングと一緒ですね。「A」という商品は月あたり100万円の売り上げがあるとします。この商品の売り上げを伸ばすために宣伝広告を行います。
宣伝広告費に200万円かかりました。その結果売り上げが倍の200万円になりました。
売り上げは100万円上がりましたがそのために200万円かけてしまっては100万円の損失です。
また、医療費の助成を目当てに集まってきた住民たちですから皆子持ち、または子供を持つ予定の世帯ばかりでしょう。子供の医療費を助成するということは市町村の医療負担が増えることを意味します。
さらに問題なのが軽症での病院の利用頻度が増えることです。
1回病院を利用するのに5万円かかるとします。そんなん誰が利用するかと思うかもしれませんが痛くて仕事が出来ない。このままでは死んでしまいそうだとなれば1回5万円でも利用すると思います。逆に言うとそんなことにでもならない限り利用しないでしょう。
ところが1回の利用が100円だったらどうでしょう。ちょっと咳が出る、ちょっと痛い、何か違和感がある。そんな些細な症状でもとりあえず病院に行っておくかと考える人が増えるわけです。
予防医学という観点からみれば些細なことでも病院に行ったほうが死亡率は下がるでしょう。
しかし経済の観点から見ると費用対効果を考えなければなりません。
医療機関の利用頻度を上げることによって死亡リスクが下がった。しかし死亡リスクが下がったことによって得られた利益より死亡リスクを下げるためにかかった費用が上回れば経済学上は失敗と言わざるを得ません。
クーポン券をばらまいて来店した客が果たしていくら使ってくれるのか。費用対効果を熟考できていないと痛い目を見そうです。
そして痛い目を見る市町村が多いのではと思っています。